「愛・アムール」

 「オール讀物」という月刊誌に長部日出雄の「新・紙ヒコーキ通信」というコラムが連載されています。毎月2,3本の話題映画を取り上げ評論していますが、映画評として読み応えがあって信頼できる愛読欄です。これに先月取り上げられていたのはフランス映画の「愛・アムール」。

 さっと眺めて、高く評価していることが判りましたから、ネタバレにならないように中身は読みませんでした。見てから読もうというわけです。週刊文春の映画評でも5人の評者、星4つか5つの高い評価でしたから、近くに来たら見に行こうと決めていました。

 ところがなかなか来ない、ネットで調べると名古屋近辺では伏見のミリオン座だけで興行しています。しかも1日一回だけのため時間が合いません。気にしながら3週間ほども経って、連休に入り都合が付くのではないかと再度調べると5/3が最終日になっています。

 時間も9:30からの開始、あわてて昨日家内と電車に乗って出かけて来ました。2時間7分の作品でテーマも重いものだと判っていましたから多少身構えていたものの、殆ど室内だけの劇進行ながら老夫婦の、家族の演技に集中、すぐ2時間が経ってしまいました。

 原題は「Amour」、老老介護の現実を冷徹に映しだしていますが、監督が言いたかったのは社会問題としての介護ではなく、題名通り夫婦の愛情を描きたかったようです。才能があって美しく、溌剌としていた妻が病に倒れる。老いはその思い出を容赦なく崩壊させていく。

 そうなったとき夫はどう行動するのか。見終わってみれば主題はシンプルで、だからその強い思いはしっかり観客に伝わってきます。主演、ジャン・ルイ・トランティニアン、「男と女」でフォードGTを駆っていた俳優です。この作品が66年で当時36歳、現在82歳ですか

 仏映画を支えてきた一人ですが、個人的には「男と女」より「離愁」というこれまた地味な映画の主演者として強く印象に残っています。原題は「汽車」、ジョルジュ・シムノン作、第2次大戦下のフランス、平凡に暮らしていたラジオ技師がふとしたきっかけである女と同じ汽車に乗り知り合う。

 女はナチスに追われるユダヤ人。ほんの小さなふれあいで心を通い合わせ愛し合う。そして別れ。それで終わるはずの恋が、ゲシュタポに捕らわれた女の尋問に呼び出され、遠かったはずの砲声が身近に迫ってくる。この女を知らないと言えばそれでまた普通の日々が続く。

 女は男がそう言うことを理解している。しかし男はノンという代わりに女の頬に手を添える。凍り付き棘立ち堅固だった女の心は一気に溶融、その手のぬくもりに崩れ落ち涙にくれる。これはねぇ、全然評判にならなかったけれどいい映画でした。あまり素晴らしかったから翌日また見に行きました。

 淡々とシーンを積み重ね、最後にクライマックス。最後を取っ払ったら全く退屈な映画なんですけれど、その過程があるからエピローグのシーンが生きてきます。「愛。アムール」もそういう映画でした。どちらのトランティニアンも寡黙な演技が良かった。

 でもまぁ「離愁」の場合はユダヤ女を演じたロミー・シュナイダーがより素晴らしかったんですけどね。もう故人ですがかつてアランドロンの恋人といわれあの時代に咲いた大輪の花でした。「オール読物」の先月号は実家の方に行っていますので、あとで長部日出雄の映画評を確認してみます。

 
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 ツバメの鳴き声で上を見上げると電線に止まっていました。彼方に朝の月。

 

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